突然血を吐いたり、吐いた物に血が混じっているのを見つけたとき、多くの方が強い不安や恐怖を感じるでしょう。特に胃潰瘍と診断されている方や、胃の痛みがある方にとって、吐血は非常に心配な症状です。
胃潰瘍による吐血は消化管出血の一種であり、大量の場合は生命に直結する緊急事態となる可能性があります。しかし、現在では内視鏡による止血治療が主流となっており、多くのケースで手術をせずに回復することが可能です。
この記事では、胃潰瘍による吐血の原因やメカニズム、危険なサインの見分け方、緊急時の対応方法について、実際の症例を交えながら詳しく解説します。適切な知識を身につけることで、いざという時に冷静に対処できるようになりましょう。
胃潰瘍とは?吐血が起こるメカニズムを理解しよう
胃潰瘍による吐血を理解するために、まずは胃潰瘍という病気の基本的な知識から確認していきましょう。胃潰瘍がどのような状態で、なぜ出血が起こるのかを知ることが、適切な対応につながります。
胃潰瘍の基本的なメカニズム
胃潰瘍とは、胃の粘膜が深くえぐれてしまった状態を指します。胃は通常、胃酸から自分自身を守るための粘液バリアを持っていますが、このバリア機能が破綻すると胃酸によって胃壁が消化されてしまいます。
私もこれまでに多くの胃潰瘍の方を診察してきましたが、初期症状として胃の痛みや胸やけを訴える方が大半です。しかし、潰瘍が深くなり血管まで達すると、出血が始まります。
胃潰瘍の進行段階 | 症状の特徴 | 出血リスク |
---|---|---|
初期段階 | 胃痛、胸やけ、食欲不振 | 低 |
中等度 | 持続的な痛み、体重減少 | 中等度 |
重度 | 激しい痛み、吐血、下血 | 高 |
胃潰瘍の主な原因
胃潰瘍の原因として最も一般的なのは、ピロリ菌感染と非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)の服用です。これらが胃の粘膜バリアを破綻させ、胃酸による損傷を引き起こします。
ピロリ菌は長期間にわたって胃粘膜に慢性的な炎症を起こします。日本人全体の感染率は世代差が大きく、若年層では1割前後、高齢層で4~5割とされています。
また、NSAIDsは痛み止めとして広く使用されていますが、胃粘膜保護作用を阻害するため、長期服用により潰瘍リスクが高まります。
- ピロリ菌感染:慢性的な胃粘膜の炎症を引き起こし、粘膜バリアを弱める
- NSAIDs服用:胃粘膜保護物質の産生を抑制し、胃酸による損傷を促進
- ストレス:胃酸分泌の増加や血流低下により粘膜の抵抗力を低下させる
- 喫煙・飲酒:粘膜の血流を悪化させ、治癒を妨げる
吐血が起こるメカニズム
胃潰瘍で吐血が起こるのは、潰瘍が深くなって胃壁の血管を傷つけるためです。特に動脈性の出血が起こると、大量の血液が胃内に流入し、これが吐血として現れます。
実際の診察の中で、吐血を起こす胃潰瘍には特徴的なパターンがあります。その多くの場合、十二指腸に近い胃角部や前庭部に発生した潰瘍で、比較的太い血管が走行している部位での出血が問題となります。
胃潰瘍による吐血の症状と危険サイン
胃潰瘍による吐血には様々な現れ方があり、その色や量によって緊急度が判断できます。適切な対応のためには、危険なサインを見逃さないことが重要です。
吐血の色と特徴による分類
吐血の色は出血部位や出血量、胃内での滞留時間によって変化します。この色の違いを理解することで、緊急度の判断に役立てることができます。
当院に救急搬送される前に受診される方の中には、「コーヒーかすのような黒い物を吐いた」と表現される方が多くいらっしゃいます。これは胃酸によって血液が変性したためで、比較的少量の持続的な出血を示しています。
吐血の色・性状 | 出血の特徴 | 緊急度 |
---|---|---|
鮮紅色(赤い血液) | 大量の急性出血 | 非常に高い |
暗赤色 | 中等度の出血 | 高い |
コーヒー残渣様(黒褐色) | 少量〜中等度の慢性出血 | 中程度 |
併発する症状とショックサイン
吐血に伴って現れる全身症状は、出血量や患者さんの状態を判断する重要な指標となります。特にショック症状が現れた場合は即座に救急要請が必要です。
大量出血時には循環血液量の減少により、意識障害、低血圧、頻脈、冷汗、四肢冷感などのショック症状が現れます。これらの症状は生命に直結するため、見逃してはいけません。
- 軽度の出血:軽度の貧血症状、めまい、動悸
- 中等度の出血:強いめまい、立ちくらみ、頻脈、冷汗
- 重度の出血:意識障害、血圧低下、四肢冷感、呼吸促迫
- ショック状態:意識レベル低下、収縮期血圧90mmHg未満、脈拍120回/分以上
喀血との鑑別ポイント
血を吐く症状には、胃からの吐血と肺からの喀血があり、これらを正しく区別することが適切な対応の第一歩となります。見た目は似ていても、原因となる臓器や緊急度が大きく異なります。
吐き出したものが泡混じりの鮮やかな赤色だったり、咳き込んでいたりする場合には、喀血の可能性が上がってきます。
家族の方が「血を吐いた」と慌てて受診されるケースでも、実際には喀血だったということも少なくありません。冷静に症状の特徴を観察することが重要となります。
緊急時の対応方法と受診のタイミング
胃潰瘍による吐血が起こった場合、適切な初期対応と迅速な医療機関への受診が予後を大きく左右します。家族や周囲の方も含めて、正しい対応方法を知っておくことが重要です。
救急要請すべき危険サイン
以下のような症状が1つでも当てはまる場合は、躊躇せずに119番通報してください。自己判断での様子見は非常に危険です。
私自身も過去に「もう少し様子を見てから」と受診を遅らせたために、より重篤な状態になってから搬送されるケースを目の当たりにしています。早期の対応が生命を救うことにつながります。
症状カテゴリー | 具体的な危険サイン |
---|---|
出血量 | 大量の鮮紅色の吐血、持続する吐血 |
意識・循環 | 意識もうろう、冷汗、四肢冷感 |
バイタル | 血圧低下、頻脈、呼吸促迫 |
随伴症状 | 激しい腹痛、立ちくらみ、失神 |
救急車到着までの応急処置
救急車を呼んだ後、到着までの間にできる応急処置があります。適切な体位の確保と安静保持が最も重要です。
間違った対応をしてしまうと、かえって状態を悪化させる可能性があります。搬送前の適切な対応が行われていたかどうかで、その後の経過が変わることがあります。
- 安静にして横になる(側臥位・回復体位が推奨)
- 可能であれば足を少し高くして血液循環を改善
- 吐血した場合は誤嚥防止のため顔を横向きに
- 口の中の血液は飲み込まず、吐き出すかガーゼで拭き取る
- 水分摂取は控える(緊急処置の可能性を考慮)
- 体を温めて体温の低下を防ぐ
医療機関受診時に伝えるべき情報
医療機関を受診する際には、症状の詳細な情報を正確に伝えることが、迅速で適切な診断・治療につながります。事前に情報を整理しておくことが重要です。
当院でも、家族の方が症状の詳細をメモして持参されることがあり、これが診断の大きな助けとなっています。慌てている中でも、可能な限り正確な情報を記録しておきましょう。
胃潰瘍出血の検査と最新治療法
胃潰瘍による出血が疑われる場合、迅速で正確な診断が治療成功の鍵となります。現在の医療技術では、内視鏡を用いた低侵襲な治療が主流となっており、多くのケースで手術を避けることができます。
緊急時の検査プロセス
吐血で救急搬送された場合、まず全身状態の安定化を図りながら出血源の特定を行います。血液検査により貧血の程度や凝固能を確認し、同時に緊急内視鏡検査の準備を進めます。
症状が軽微に見えても、血液検査で高度の貧血が判明するケースが少なくありません。見た目の症状だけでなく、客観的なデータに基づいた評価が不可欠です。
内視鏡による止血治療の実際
現在の胃潰瘍出血治療の主役は内視鏡治療です。内視鏡技術の進歩により、90%以上の症例で内視鏡的止血が可能となっており、開腹手術が必要となるケースは大幅に減少しています。
- クリップ法:出血点を金属クリップで物理的に止血
- 電気凝固法:電気エネルギーで血管を凝固閉鎖
- 注射療法:血管収縮薬や硬化剤を局注
- アルゴンプラズマ凝固:プラズマエネルギーで表面凝固
当院では内視鏡による止血処置を行っていませんので、内視鏡が必要な状態と判断した場合には速やかに高次医療機関への紹介を行います。
入院治療と経過観察
内視鏡止血後は、再出血の監視と全身管理のため入院治療となる場合が多いです。止血が確認できても、24〜48時間は慎重な経過観察が欠かせません。
実際の治療では、止血処置の成功だけでなく、潰瘍の根本原因に対する治療も同時に開始します。ピロリ菌除菌やプロトンポンプ阻害薬による酸分泌抑制治療が、再発予防の重要な要素となります。
実際の症例から学ぶ胃潰瘍吐血の経過
実際の症例を通じて、胃潰瘍による吐血の様々なパターンと、その対応方法について具体的に見ていきましょう。これらの実例は、同様の症状に遭遇した際の参考となるはずです。
軽度出血の早期発見例
50代男性のケースをご紹介します。この方は数日前から胃の不快感を感じており、朝起きた際にコーヒー残渣様の嘔吐物を認めて当院を受診されました。
幸い早期の受診だったため血液検査では軽度の貧血のみでしたが、近隣の病院に搬送し緊急内視鏡検査を行ってもらったところ、胃角部の潰瘍からの軽度出血が確認されました。内視鏡的止血処置により出血は完全に停止し、3日間の入院で退院となりました。
このケースでは、症状を軽視せずに早期受診されたことが良好な結果につながりました。また、その後のピロリ菌除菌治療まで行われ、現在まで再発は認めていません。
大量出血による緊急搬送例
私が以前に勤務していた病院で経験した70代女性の症例では、自宅で突然大量の鮮紅色の吐血を起こし救急搬送されましたが、病院到着時には血圧低下とショック症状を呈しており、緊急輸血と内視鏡止血処置が必要でした。
この方の場合、長期間のNSAIDs服用歴があり、十二指腸潰瘍からの動脈性出血が原因でした。迅速な救急搬送と集学的治療により、生命の危険を脱することができましたが、高齢であることから回復に時間を要しました。
症例の特徴 | 軽度出血例 | 重度出血例 |
---|---|---|
年齢・背景 | 50代男性、ストレス多い | 70代女性、NSAIDs長期服用 |
初発症状 | コーヒー残渣様嘔吐 | 大量の鮮紅色吐血 |
受診方法 | 自分で外来受診 | 救急搬送 |
治療期間 | 3日間入院 | 2週間入院、ICU管理 |
症例から学ぶ教訓
これらの症例から学べる重要なポイントは、早期発見・早期治療の重要性と、個々の患者背景に応じたリスク評価の必要性です。
軽症例でも油断は禁物であり、重症例では迅速な対応が生死を分けることがあります。また、高齢者や基礎疾患を持つ方では、より慎重な管理が必要となることが明らかです。
- 少量の血液でも早期受診が重要
- NSAIDs服用者は特に注意が必要
- 高齢者では重篤化しやすい傾向
- 家族の観察と支援が治療成功に重要
胃潰瘍の再発予防と日常生活での注意点
胃潰瘍による出血を経験した後は、再発予防が最も重要な課題となります。適切な治療と生活習慣の改善により、多くの場合で再発を防ぐことが可能です。
ピロリ菌除菌治療の重要性
胃潰瘍の最も重要な再発予防策は、ピロリ菌除菌治療です。ピロリ菌の除菌に成功すると、胃潰瘍の再発率は劇的に低下することが証明されています。
胃潰瘍の治療を行った方には基本的にピロリ菌検査が実施され、陽性の場合は除菌治療を行います。除菌成功率は適切な薬剤選択により90%以上と高く、多くの方で良好な結果が得られています。
※当院ではピロリ菌の除菌治療薬は処方できません
薬物治療と服薬管理
NSAIDsが原因の胃潰瘍では、可能な限り原因薬剤の中止または変更を検討します。しかし、関節リウマチなどで継続が必要な場合は、プロトンポンプ阻害薬の併用による胃粘膜保護が重要となります。
私たちの治療では、患者さんの基礎疾患や服薬状況を総合的に評価し、個々に最適な治療方針を決定します。定期的な内視鏡検査による経過観察も欠かせません。
- プロトンポンプ阻害薬による酸分泌抑制
- H2受容体拮抗薬による補助的治療
- 胃粘膜保護薬による粘膜バリア強化
- NSAIDsの適切な使用方法の指導
生活習慣改善のポイント
薬物治療と並行して、生活習慣の改善も胃潰瘍の再発予防には不可欠です。特に食事、ストレス管理、嗜好品の見直しが重要なポイントとなります。
当院では管理栄養士による栄養指導も行っており、患者さん一人一人のライフスタイルに合わせた実践的なアドバイスを提供しています。小さな変化の積み重ねが、大きな改善につながることを実感しています。
よくある質問と回答
Q1: 胃潰瘍で吐血した場合、必ず入院が必要ですか?
A: 吐血の程度により異なりますが、出血が確認された場合は入院での経過観察が基本です。実臨床では外来で経過観察する場合もありますが、少量の出血でも再出血のリスクがあるため、注意深くケアすることが必要です。
Q2: コーヒー残渣様の嘔吐物が出たら、すぐに救急車を呼ぶべきですか?
A: コーヒー残渣様の嘔吐物は上部消化管出血のサインです。量が少なくても医療機関での検査が必要なため、まずは救急外来のある病院に連絡し、指示を仰いでください。全身状態が良好であれば救急車でなくても構いませんが、迷った場合は119番通報が安全です。
Q3: 胃潰瘍の出血は薬だけで止まることがありますか?
A: 軽度の出血の場合、プロトンポンプ阻害薬などの薬物治療により自然止血することがあります。しかし、出血源の確認と適切な評価のため、内視鏡検査は必要です。薬物治療のみでの様子見は危険なため、必ず医療機関での診察を受けてください。
Q4: ピロリ菌除菌後も胃潰瘍は再発しますか?
A: ピロリ菌除菌に成功すると、胃潰瘍の再発率は大幅に低下します。しかし、NSAIDsの服用やストレスなどの他の要因により再発する可能性はゼロではありません。除菌後も定期的な検査と生活指導の継続が推奨されます。
Q5: 家族に胃潰瘍で吐血した人がいます。何に注意すべきですか?
A: まず安静にして横になってもらい、吐血が続くようであれば迷わず119番通報してください。口の中の血液は飲み込まず吐き出させ、水分摂取は控えてください。意識レベルの変化や顔色の悪化があれば、より緊急性が高いサインです。落ち着いて対応することが重要です。
まとめ
胃潰瘍による吐血は、適切な知識と迅速な対応により多くのケースで良好な結果が期待できる疾患です。少量の出血であっても軽視せず、早期の医療機関受診が重要であることを忘れてはいけません。
現在の医療技術では、内視鏡による止血治療が主流となっており、手術が必要となるケースは大幅に減少しています。しかし、大量出血時の緊急対応や、ピロリ菌除菌による根本的な治療が、長期的な予後を決定する重要な要素となります。
日頃から胃の症状に注意を払い、定期的な検査を受けることで、重篤な出血を予防することが可能です。気になる症状がある場合は、早めに専門医に相談し、適切な治療を受けるようにしましょう。
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