最近、疲れやすくなったり顔がむくんだりしていませんか。慢性甲状腺炎(橋本病)は、女性に多い比較的頻度の高い自己免疫疾患で、日本人では成人女性のうち数%〜1割程度にみられると報告されています。
この病気は初期には症状が現れにくく、「なんとなく調子が悪い」程度の症状から始まることが多いため、見過ごされがちです。しかし、進行すると疲労感や顔つきの変化、首の腫れなど、日常生活に大きく影響する症状が現れてきます。
当院でも、健康診断で甲状腺の異常を指摘された方々から「具体的にどんな症状が出るのか」「治療すれば改善するのか」といったご相談を多数いただいています。適切な診断と治療により症状の改善が期待できる疾患ですので、詳しくご説明いたします。
慢性甲状腺炎(橋本病)とは何か
慢性甲状腺炎は、橋本病とも呼ばれる甲状腺の慢性炎症性疾患です。自己免疫疾患の一種で、本来は外敵から身体を守るはずの免疫系が、誤って自分の甲状腺組織を攻撃することで起こります。
この疾患は1912年に日本の病理学者である橋本策博士によって初めて報告されたため、橋本病と呼ばれています。女性に圧倒的に多く、男女比は約10:1とされており、特に30~50歳代の女性に好発します。
甲状腺の役割
甲状腺は首の前面、のどぼとけの下に位置する蝶々のような形をした器官です。甲状腺ホルモン(T3、T4)を分泌し、全身の新陳代謝をコントロールする重要な役割を担っています。このホルモンは体温調節、心拍数の調整、エネルギー代謝などに関与しており、生命維持に欠かせません。
自己免疫疾患としてのメカニズム
慢性甲状腺炎では、抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体といった自己抗体が産生され、これらが甲状腺組織を攻撃します。血液検査でこれらの抗体値が高値を示すケースで鑑別に挙がる疾患です。
| 自己抗体の種類 | 正常値の目安 |
|---|---|
| 抗TPO抗体 | 16 IU/mL未満 |
| 抗サイログロブリン抗体 | 28 IU/mL未満 |
| TSH | 0.5~5.0 μIU/mL |
遺伝的な要因
橋本病の発症には遺伝的要因も関与しており、家族歴がある方では発症リスクが高くなります。実際に、お母様が橋本病と診断されている方が当院を受診され、同様の診断となるケースがありました。
慢性甲状腺炎の主な症状
慢性甲状腺炎の症状は、病気の進行段階により大きく異なります。初期には無症状のことも多く、徐々に甲状腺機能低下症の症状が現れてきます。
当院では、健康診断で甲状腺の異常を指摘されて来院される方々に、具体的にどのような症状を感じているかを問診で確認しています。多くの方が「疲れやすい」「寒がりになった」といった訴えをされますが、これらは橋本病の典型的な症状です。
全身の疲労感と倦怠感
慢性甲状腺炎で最も多く見られる症状が、強い疲労感と倦怠感です。甲状腺ホルモンの分泌が低下することで、全身の新陳代謝が低下し、常に疲れた状態が続きます。十分な睡眠をとっても疲れが取れない、階段を上るだけで息切れがするといった症状が現れます。
体温調節異常による症状
甲状腺ホルモンは体温調節に重要な役割を果たしているため、機能低下により寒がりになることが特徴的です。夏でも厚着をしたり、手足が冷たくなったりする症状が見られます。
- 手足の冷え性の悪化
- 平熱より低めの体温が続く
- 発汗の減少
- 暑さを感じにくくなる
代謝異常による身体的変化
新陳代謝の低下により、様々な身体的変化が現れます。これらの症状は徐々に進行するため、気づくのが遅れることが多いのが特徴です。
| 症状カテゴリ | 具体的な症状 |
|---|---|
| 体重・食欲の変化 | 体重増加、食欲低下 |
| 皮膚・毛髪の変化 | 乾燥肌、脱毛、毛髪の細化 |
| 循環器症状 | 脈拍の減少、血圧上昇 |
| 消化器症状 | 便秘、腹部膨満感 |
精神・神経症状
甲状腺機能低下により、うつ症状や記憶力低下などの精神・神経症状も現れます。これらの症状は単なる精神的な問題と誤解されやすく、適切な治療が遅れる原因となることもあります。
慢性甲状腺炎による外見の変化
慢性甲状腺炎では、顔つきや外見に特徴的な変化が現れることがあります。これは甲状腺機能低下により、体内に水分や老廃物が蓄積することが主な原因です。
当院で診察した50代の女性の方で、「最近、朝起きると顔がパンパンにむくんでいる」「写真を見返すと、以前より老けて見える気がする」と訴えられ、甲状腺機能を検査したところ典型的な橋本病の診断に至った事例がありました。
顔面のむくみ(浮腫)
顔面のむくみは橋本病で最も特徴的な外見上の変化の一つです。特に目の周りや頬がむくみ、朝起きた時に症状が強く現れる傾向があります。このむくみは単なる水分の蓄積ではなく、ムコ多糖類という物質が皮下組織に蓄積することで起こります。
皮膚の質感の変化
甲状腺機能低下により、皮膚の新陳代謝が低下し、様々な皮膚症状が現れます。これらの変化は徐々に進行するため、本人や家族も気づきにくいことが特徴です。
- 皮膚の乾燥とざらつき
- 皮膚の厚みの増加
- 皮膚が黄みがかって見える(カロチン血症様の変化)
- 傷の治りが遅くなる
- 湿疹や皮膚炎の悪化
毛髪の変化
甲状腺ホルモンは毛髪の成長にも重要な役割を果たしているため、機能低下により毛髪にも変化が現れます。当院では、「最近、髪の毛が細くなった」「抜け毛が増えた」という訴えで受診される方も多くいらっしゃいます。
| 毛髪の変化 | 症状の詳細 |
|---|---|
| 脱毛 | 頭髪全体の薄毛、眉毛の脱落 |
| 毛質の変化 | 毛髪が細く、もろくなる |
| 成長速度の低下 | 毛髪の伸びが遅くなる |
首周りの変化
甲状腺腫大により、首の前面が腫れることがあります。この腫れは痛みを伴わないことが多く、徐々に進行するため気づきにくい場合があります。鏡で首元を確認したり、シャツの襟がきつく感じたりすることで発見されることもあります。
慢性甲状腺炎の原因
慢性甲状腺炎の発症には、遺伝的要因と環境要因が複雑に関与しています。完全なメカニズムはまだ解明されていませんが、自己免疫反応が主な原因であることは明確になっています。
私たちの診療経験では、ストレスの多い生活環境や妊娠・出産といったホルモンバランスの変化がきっかけとなって発症するケースを多く見ています。特に女性では、ライフステージの変化と密接に関連していることが特徴的です。
自己免疫反応
橋本病では、本来は身体を守るべき免疫システムが誤って自分の甲状腺組織を攻撃することで炎症が起こります。この過程で抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体といった自己抗体が産生され、甲状腺の破壊が進行します。
遺伝的要因
橋本病には明らかな家族集積性があり、遺伝的素因が重要な役割を果たしています。特定の白血球抗原(HLA)のタイプを持つ方では発症リスクが高くなることが知られています。
- 家族歴がある場合、発症リスクは約5~10倍上昇
- 一卵性双生児の一致率は約30~60%
- HLA-DR4、HLA-DR5との関連が報告
- 遺伝子の組み合わせによりリスクが決まる
環境要因
遺伝的素因を持つ方でも、何らかの環境要因がトリガーとなって発症することが多いとされています。当院でも、出産後や強いストレスを受けた後に症状が現れた方々を数多く診察しています。
| 環境要因 | 発症への影響 | メカニズム |
|---|---|---|
| 妊娠・出産 | 発症リスク上昇 | 免疫システムの変化 |
| 過度のストレス | 症状の悪化 | コルチゾール分泌異常 |
| ヨード過剰摂取 | 甲状腺機能に影響 | 甲状腺機能低下や自己免疫反応を誘発することがある |
| ウイルス感染 | 免疫反応の誘発 | 分子模倣メカニズム |
女性ホルモン
橋本病が女性に圧倒的に多い理由の一つとして、女性ホルモンの影響が考えられています。エストロゲンは免疫システムに影響を与え、自己免疫疾患の発症や症状の変動に関与することが知られています。
慢性甲状腺炎の検査項目
慢性甲状腺炎の診断には、診察と検査結果を組み合わせて総合的に判断します。
診断の精度を高めるために、私たちは複数の検査項目を組み合わせて評価しています。単一の検査結果だけで診断を確定することはなく、必ず患者さんの症状や経過と照らし合わせて判断しています。
血液検査
血液検査は橋本病診断の中核となる検査方法です。甲状腺ホルモン値、甲状腺刺激ホルモン(TSH)値、および自己抗体の測定により診断を行います。
| 検査項目 | 正常値 | 橋本病での変化 |
|---|---|---|
| TSH | 0.5~5.0 μIU/mL | 上昇(機能低下時) |
| 遊離T4 | 0.8~1.8 ng/dL | 低下(機能低下時) |
| 抗TPO抗体 | 16 IU/mL未満 | 著明上昇 |
| 抗サイログロブリン抗体 | 28 IU/mL未満 | 上昇 |
甲状腺エコー検査
甲状腺エコー検査では、甲状腺の大きさ、形状、内部の構造を詳しく観察できます。橋本病では特徴的な所見が認められ、診断の補助として重要な検査です。
- 甲状腺の腫大(びまん性または結節性)
- 内部エコーの不均一化(モザイク様パターン)
- 血流の増加または減少
- 甲状腺内の結節の有無
- 周囲組織との境界の変化
※当院では超音波検査は行っていませんので、必要と判断した場合には近隣病院などに紹介させていただきます
その他の補助的検査
病状に応じて、甲状腺シンチグラフィーや細胞診などの詳細検査が必要になることもあります。これらの検査は、他の甲状腺疾患との鑑別診断や治療方針の決定に補助的な役割を果たします。
慢性甲状腺炎の治療
慢性甲状腺炎そのものに対する特別な治療はなく、甲状腺機能が低下している場合には甲状腺ホルモンの補充療法が中心となります。適切な治療により症状の改善が期待でき、多くの方々が正常な日常生活を送ることができます。
当院では、個々の方の症状や検査結果に応じて治療方針を決定し、定期的なフォローアップを通じて最適な治療効果を目指しています。治療開始後の症状改善には個人差がありますが、多くの場合、2~3ヶ月で効果を実感していただけます。
薬物療法
橋本病に伴う甲状腺機能低下症の治療には、レボチロキシン(合成甲状腺ホルモン)の内服が第一選択となります。この薬は不足している甲状腺ホルモンを補充し、症状の改善を図ります。治療開始時は少量から始めて、血液検査の結果を見ながら徐々に用量を調整していきます。
治療効果の評価と調整
治療効果の判定には定期的な血液検査が不可欠です。TSH値を目標範囲内に維持することを目指し、症状の改善状況と併せて薬の用量を調整します。
| 治療段階 | 検査間隔 |
|---|---|
| 治療開始時 | 4~6週間毎 |
| 安定期 | 3~6ヶ月毎 |
日常生活での注意点
治療と並行して、日常生活でも症状改善に向けた工夫が大切です。当院では、生活習慣の改善についても具体的なアドバイスを行っています。
- 規則正しい服薬(朝食前の空腹時が理想)
- 適度な運動(ウォーキングなど軽い有酸素運動)
- バランスの取れた食事
- 十分な睡眠時間の確保
- ストレス管理(リラクセーション技法など)
食事療法と栄養管理
橋本病では特別な食事制限は必要ありませんが、バランスの良い食事を心がけることが重要です。ただし、日本では海藻からのヨード摂取量が多くなりがちです。日常的に大量の昆布だしや海藻サラダをとるなど「極端な過剰摂取」は避け、普段の食事の一部として適量を心がけていただくと安心です。
妊娠・出産時の管理
妊娠を希望される方や妊娠中の方では、特別な管理が必要です。妊娠中は甲状腺ホルモンの必要量が増加するため、薬の用量調整が必要になることがあります。当院では、産婦人科と連携しながら、母体と胎児の両方の健康を考慮した治療を行っています。
よくある質問と回答
Q1: 橋本病は完治する病気ですか?
橋本病は慢性の自己免疫疾患のため、現在のところ根本的な治癒は困難です。しかし、適切な治療により症状をコントロールし、正常な生活を送ることは十分可能です。多くの方々が治療により症状の改善を実感され、日常生活に支障なく過ごされています。
Q2: 薬は一生飲み続ける必要がありますか?
多くの場合、継続的な内服が必要になります。ただし、軽症の方では経過観察のみで症状が安定することもあります。当院では、定期的な検査により甲状腺機能を評価し、個々の状態に応じて治療方針を決定しています。自己判断での服薬中止は症状の悪化につながるため、必ず医師と相談してください。
Q3: 橋本病でも妊娠・出産は可能ですか?
適切に治療されていれば、妊娠・出産は十分可能です。ただし、妊娠中は甲状腺ホルモンの必要量が変化するため、より頻繁な検査と薬の調整が必要になります。妊娠を希望される方は、事前に甲状腺機能を最適な状態に調整しておくことが重要です。
Q4: 橋本病は遺伝しますか?
橋本病には遺伝的要因がありますが、必ず遺伝するわけではありません。家族歴がある場合は発症リスクが高くなりますが、遺伝的素因があっても発症しない方も多くいます。家族に甲状腺疾患の方がいる場合は、定期的な検査を受けることをお勧めします。
Q5: 食事で気をつけることはありますか?
特別な食事制限は必要ありませんが、ヨードの過剰摂取は避けるべきです。昆布や海苔などの海藻類は適量に留め、ヨード含有のうがい薬や造影剤使用時は医師に相談してください。バランスの良い食事と適度な運動により、全体的な体調管理を心がけることが大切です。
まとめ
慢性甲状腺炎(橋本病)は、女性に多く見られる自己免疫疾患で、疲労感や顔つきの変化、首の腫れなど様々な症状が現れます。初期には症状が軽微なため見過ごされがちですが、進行すると日常生活に大きな影響を与える可能性があります。
しかし、適切な診断と治療により症状の改善は十分期待でき、多くの方々が正常な生活を送ることができます。血液検査による早期発見と甲状腺ホルモン補充療法が治療の中心となり、定期的なフォローアップにより最適な治療効果を維持できます。気になる症状がある場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。
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