「最近動悸が激しくて、手も震える」「急に体重が減った」このような症状でお悩みの方は、バセドウ病の可能性を考える必要があります。
バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰に分泌される代表的な疾患で、適切な検査により確実に診断できます。しかし、「どんな検査をするのか」「痛みはあるのか」「費用はどれくらいか」など、不安に思う方も多いでしょう。
この記事では、実際にバセドウ病の診療を行う内科医師として、検査の内容から症状、原因、治療法まで、皆様が知りたい情報を詳しく解説します。実際の診療例も交えながら、わかりやすくお伝えしていきます。
バセドウ病とは?基本的な病気の概要を解説
バセドウ病は、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンが過剰になる代表的な疾患です。甲状腺は首の前側、のどぼとけの下にある蝶のような形をした臓器で、体の新陳代謝を調節する重要な働きを担っています。
この病気は自己免疫疾患の一種で、本来は外敵から体を守るはずの免疫システムが、誤って自分の甲状腺を刺激してしまうことで発症します。その結果、甲状腺ホルモンが必要以上に作られ、全身の代謝が異常に活発になってしまうのです。
バセドウ病の特徴
バセドウ病は決して珍しい病気ではありません。日本人では年間発症率が10万人あたり約20〜30人とされ、男女比は約1:5〜10と女性に多く見られます。
特に20〜40代の女性に好発し、妊娠や出産、ストレスなどをきっかけに発症することが多いのが特徴です。当院でも、「出産後に体調がおかしくなった」「仕事のストレスが続いた後に症状が現れた」という方を数多く診療しています。
| 項目 | 詳細内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 発症頻度 | 女性10万人あたり年間20〜30人 | 男性では約5分の1の頻度 |
| 好発年齢 | 20〜40代 | 妊娠・出産期と重なることが多い |
| 男女比 | 1:5〜6 | 女性に圧倒的に多い |
| 遺伝性 | 家族内発症あり | 直接的遺伝ではなく体質的素因 |
甲状腺ホルモンの正常な働き
バセドウ病を理解するためには、まず甲状腺ホルモンの正常な働きを知ることが重要です。甲状腺ホルモンには主にT3(トリヨードサイロニン)とT4(サイロキシン)があり、これらは全身の細胞の新陳代謝を調節しています。
正常な状態では、脳の下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)によって甲状腺ホルモンの分泌量が適切にコントロールされています。しかし、バセドウ病では自己抗体が甲状腺を過度に刺激するため、このコントロールが効かなくなってしまうのです。
バセドウ病の主な症状
バセドウ病の症状は多岐にわたりますが、初期には「なんとなく体調が悪い」程度の軽い症状から始まることも多く、見逃されがちです。しかし、特徴的な症状を知っておくことで、早期発見につながります。
多くの方が最初に気づく症状は動悸と体重減少です。「食べているのに痩せる」「安静にしていても心臓がドキドキする」といった症状が続く場合は、バセドウ病を疑う必要があります。
代謝亢進による症状
甲状腺ホルモンの過剰分泌により、体の新陳代謝が異常に活発になることで現れる症状群です。これらは日常生活に大きな影響を与えるため、多くの方が医療機関を受診するきっかけとなります。
- 動悸・頻脈(安静時でも心拍数が100回/分以上)
- 体重減少(食欲があるにも関わらず1〜3か月で数kg減少)
- 発汗過多(暑がり、汗をかきやすくなる)
- 疲労感・倦怠感(疲れやすく、集中力が低下)
- 不眠(寝付きが悪い、夜中に目が覚める)
神経・筋肉症状
甲状腺ホルモンの過剰は神経系や筋肉にも影響を与え、日常動作に支障をきたす症状が現れます。手指振戦は多くの方に見られる代表的な症状です。
- 手指振戦(手が細かく震える)
- 筋力低下(階段の昇降がつらい、重い物が持てない)
- イライラ感・情緒不安定
- 集中力低下・記憶力低下
特徴的な身体所見
バセドウ病に特徴的な身体の変化も重要な診断の手がかりとなります。特に甲状腺腫大と眼症状は、医師が診察で注意深く観察するポイントです。
| 症状 | 特徴 | 出現頻度 |
|---|---|---|
| 甲状腺腫大 | 首の前側が全体的に腫れる | 約90%以上 |
| 眼球突出 | 目が前に出てくる | 約30〜50% |
| 眼瞼後退 | まぶたが上がって白目が見える | 約60〜80% |
| 複視 | 物が二重に見える | 約20〜30% |
バセドウ病の主な原因
バセドウ病の原因は、自分の体を守るはずの免疫システムが誤って甲状腺を攻撃してしまう自己免疫疾患です。具体的には、TRAb(TSH受容体抗体)という自己抗体が甲状腺を過剰に刺激することで発症します。
しかし、なぜこのような自己抗体が作られるのかについては、複数の要因が関与していると考えられています。当院での診療でも、「なぜ私がこの病気になったのか」という質問をよく受けますが、多くの場合は複合的な要因によるものです。
遺伝的要因
バセドウ病には遺伝的素因があることが知られています。家族にバセドウ病や他の甲状腺疾患の方がいる場合、発症リスクが高くなる傾向があります。
ただし、これは「遺伝病」ではなく、あくまで病気になりやすい体質が遺伝するということです。家族に甲状腺疾患の方がいても、必ずしも発症するわけではありません。
環境的要因・誘発因子
遺伝的素因を持つ方でも、何らかのきっかけがないと発症しないことが多いです。主な誘発因子として以下のようなものが挙げられます。
- 精神的ストレス(仕事、人間関係、家庭環境の変化)
- 身体的ストレス(感染症、外傷、手術)
- 妊娠・出産(ホルモンバランスの大きな変化)
- 過度のヨード摂取(海藻類の過剰摂取)
- 喫煙(特に眼症状のリスク因子)
自己抗体
バセドウ病の発症には、主にTRAb(TSH受容体抗体)という自己抗体が関与しています。この抗体が甲状腺のTSH受容体に結合し、まるでTSHのように甲状腺を刺激し続けることで、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されます。
| 抗体の種類 | 作用 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| TRAb | 甲状腺を刺激 | 診断に最も重要、治療効果の判定にも使用 |
| TSAb | 甲状腺刺激活性 | TRAbと同様の意義、より特異的 |
| TPO抗体 | 甲状腺破壊 | 他の甲状腺疾患との鑑別に有用 |
| Tg抗体 | 甲状腺破壊 | 自己免疫性甲状腺疾患の診断補助 |
バセドウ病の検査
バセドウ病の診断には、まず血液検査が用いられます。甲状腺ホルモンの状態と自己抗体の有無を確認し、確実な診断を行います。
当院では、初診時から診断確定まで通常1〜2週間程度で完了します。「検査が多くて大変そう」と不安に思われる方も多いですが、実際には比較的シンプルで、ほとんど痛みを伴わない検査です。
血液検査(甲状腺ホルモン・自己抗体検査)
血液検査はバセドウ病診断の中核となる検査で、甲状腺ホルモンの値と自己抗体の有無を調べます。採血は通常の健康診断と同じ方法で行います。甲状腺の検査のみであれば、必ずしも朝食を抜く必要はありません。
結果は通常2〜4日程度で判明し、TSH低値、FT3・FT4高値に加えてTRAb陽性が確認されると、バセドウ病と診断することが多いです。
| 検査項目 | 基準値の目安 | 変化 |
|---|---|---|
| TSH | 0.35〜4.94 μIU/mL | 著明低値(<0.01) |
| FT3 | 2.1〜4.1 pg/mL | 高値(5.0以上など) |
| FT4 | 0.82〜1.63 ng/dL | 高値(2.0以上など) |
| TRAb | <2.0 IU/L | 陽性(15.0以上など) |
甲状腺超音波検査(エコー検査)
超音波検査では、甲状腺の大きさ、形、血流の状態を詳しく観察します。バセドウ病では特徴的な所見として、甲状腺全体の腫大と血流の著明な増加が認められます。
検査は首にゼリーを塗ってプローブを当てるだけで、基本的に痛みはありません。検査時間は約10分程度で、リアルタイムで甲状腺の状態を確認できます。
※当院では超音波検査を取り扱っておりませんので、必要な方は近隣病院に紹介させていただく形になります。
その他の補助的検査
基本的な血液検査と超音波検査で診断は可能ですが、場合によっては追加の検査が必要になることがあります。これらの検査は、他の甲状腺疾患との鑑別や治療方針の決定の参考にします。
- 甲状腺シンチグラフィー(放射性ヨードの取り込みを見る検査)
- CT・MRI検査(甲状腺腫が大きい場合の周囲臓器への影響評価)
- 穿刺吸引細胞診(結節がある場合の良悪性鑑別)
- 心電図(心房細動などの心合併症の評価)
バセドウ病の検査から診断までの診療例
実際の診療例を通じて、バセドウ病の検査がどのように進むかを具体的にご紹介します。これは当院で実際に経験した症例を一般化したものです。
初診時の問診・診察
初診では病歴聴取と身体診察を行いました。Aさんの場合、動悸・体重減少に加えて、手指振戦、発汗過多、不眠症状も認められました。
身体診察では、甲状腺の軽度腫大と頻脈(心拍数110回/分)を確認しました。家族歴を確認すると、母親が橋本病の治療中であることが判明し、甲状腺疾患の遺伝的素因があることがわかりました。
検査の実施と結果
初診当日に血液検査を実施し、3日後に結果説明を行いました。
| 検査項目 | Aさんの結果 | 判定 |
|---|---|---|
| TSH | <0.01 μIU/mL | 著明低値 |
| FT3 | 8.2 pg/mL | 高値 |
| FT4 | 4.1 ng/dL | 高値 |
| TRAb | 18.5 IU/L | 強陽性 |
診断確定と治療開始
バセドウ病の診断で抗甲状腺薬による治療が開始となり、3か月後には症状が大幅に改善し、6か月後にはほぼ基準値まで回復されました。
バセドウ病の治療法
バセドウ病の治療には、薬物療法・アイソトープ治療・手術療法の3つの選択肢があります。それぞれに特徴があり、年齢、症状の程度、妊娠希望の有無などを総合的に考慮して最適な治療法を選択します。
薬物療法(抗甲状腺薬)
最も一般的な治療法で、甲状腺ホルモンの合成を抑制する薬剤を使用します。主にチアマゾール(MMI)とプロピルチオウラシル(PTU)が使用され、多くの場合でMMIが第一選択となります。
治療効果は比較的早く現れ、通常4〜8週間で症状の改善を実感できます。治療期間は1.5〜2年程度が標準的ですが、かなり個人差があります。
- 内服開始から4〜8週間で症状改善
- 3〜6か月で甲状腺ホルモン値正常化
- 治療期間:1.5〜2年程度
- 寛解率:約50〜60%
- 副作用:皮疹、肝機能異常、白血球減少(まれ)
アイソトープ治療(放射性ヨード治療)
放射性ヨード(I-131)を内服し、甲状腺組織を破壊して甲状腺ホルモンの分泌を抑制する治療法です。欧米では第一選択として広く用いられており、日本でも適応が拡大しています。
一回の治療で効果が期待でき、手術に比べて身体への負担や合併症のリスクが少ない治療法です。ただし、治療後に甲状腺機能低下症となり、甲状腺ホルモン薬の内服が必要になることもあり、長期的な経過観察が重要です。また、眼症状がある方では悪化リスクにも注意が必要です。
手術療法(甲状腺全摘・亜全摘術)
甲状腺を外科的に摘出する治療法で、確実で迅速な効果が期待できます。薬物療法で効果が不十分な場合や、甲状腺腫が非常に大きい場合に適応となります。
| 治療法 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 薬物療法 | 安全性が高い、外来治療可能 | 長期間の内服が必要、再発の可能性 |
| アイソトープ治療 | 一回の治療で効果、手術リスクなし | 機能低下症のリスク、妊娠時は禁忌 |
| 手術療法 | 確実で迅速な効果 | 手術リスク、入院が必要 |
よくある質問と回答
バセドウ病の検査や治療について、当院で皆様からよく寄せられる質問にお答えします。これらの疑問は多くの方が抱える共通の不安でもありますので、参考にしていただければと思います。
検査に関する質問
Q: 血液検査は痛いですか?食事制限はありますか?
A: 通常の採血と同じで、針を刺す時の軽い痛みだけです。甲状腺の検査のみであれば食事制限は必須ではありません。薬を服用中の方は、お薬手帳をお持ちいただくとスムーズです。
Q: 検査結果はいつわかりますか?
A: 甲状腺に関連する項目は概ね3〜5日程度で結果が出ます。
症状・治療に関する質問
Q: バセドウ病は遺伝しますか?
A: 直接的に遺伝する病気ではありませんが、病気になりやすい体質は遺伝する可能性があります。家族に甲状腺疾患の方がいる場合は、定期的な検査をお勧めします。
Q: 治療期間はどのくらいですか?
A: 薬物療法の場合、通常1.5〜2年程度です。ただし、個人差があり、抗体の値や症状の程度により期間が変わります。定期的な検査で経過を見ながら、最適な治療期間を決定します。
Q: 妊娠・出産への影響はありますか?
A: 適切な治療により、妊娠・出産は可能です。ただし、使用する薬剤の選択や治療方針の調整が必要ですので、妊娠を希望される場合は早めにご相談ください。
日常生活に関する質問
Q: 食事で気をつけることはありますか?
A: 基本的に厳密な食事制限はありませんが、サプリメントや昆布だし・海藻を大量に摂るなど、ヨード(ヨウ素)を極端に多く摂取することは避けてください。通常の日本食の範囲であれば、大きな問題になることはほとんどありません。
Q: 運動はしても大丈夫ですか?
A: 治療開始初期は激しい運動は控えていただきますが、症状が安定すれば通常の運動は問題ありません。適度な運動はストレス解消にも効果的です。
まとめ
バセドウ病の検査は、主に血液検査と超音波検査により行われ、比較的シンプルで痛みの少ない検査です。TSH低値、FT3・FT4高値、TRAb陽性の組み合わせで確実に診断できます。
動悸、体重減少、手指振戦などの典型的な症状がある場合は、早期の検査をお勧めします。バセドウ病は適切な治療により改善しやすい疾患であり、早期発見・早期治療が重要です。気になる症状があれば迷わずに医療機関を受診しましょう。
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