急な腹痛に見舞われて「もしかして虫垂炎?」と不安になった経験はありませんか。急性虫垂炎(盲腸炎)は日常診療で頻繁に遭遇する急性腹症で、生涯発症リスクは男性8.6%・女性6.7%とされています。比較的よくある疾患ですが、初期症状が風邪や消化不良と似ているため、見逃されやすいのが現状です。
実際に当院でも、「最初は胃の調子が悪いと思って様子を見ていた」という方々が多く受診されます。しかし、虫垂炎は放置すると腹膜炎などの重篤な合併症を引き起こすリスクがあるため、早期発見・早期治療が極めて重要です。
この記事では、虫垂炎の初期症状を詳しく解説し、見逃しがちなサインをセルフチェックできるポイントをお伝えします。実際の症例も交えながら、どのような症状が現れたら医療機関を受診すべきかを明確にしていきましょう。
虫垂炎とは?
虫垂炎について正しく理解するために、まずは虫垂の役割と炎症が起こるメカニズムから見ていきましょう。虫垂は大腸の一部である盲腸から突き出している小指程度の細い管状の臓器で、右下腹部に位置しています。
虫垂内に便や異物が詰まることで血流が悪くなり、細菌感染を起こして炎症が進行する疾患が虫垂炎です。初期段階での発見と治療が重要な理由は、症状が進行すると虫垂が破裂し、腹腔内に感染が広がる腹膜炎を引き起こす可能性があるからです。
虫垂の位置と機能
虫垂は右下腹部の盲腸から伸びる約5〜10cmの細い管状臓器で、免疫機能に関与していると考えられています。虫垂炎の症状を理解するためには、正しい位置を把握することが重要です。
虫垂の特徴 | 詳細 | 臨床的意義 |
---|---|---|
長さ | 約5〜10cm | 個人差により症状の現れ方が異なる |
直径 | 約3〜8mm | 狭い管腔のため詰まりやすい |
位置 | 右下腹部(回盲部) | 典型的な痛みの部位を決定 |
血流 | 虫垂動脈のみ | 血流障害が起こりやすい構造 |
虫垂炎発症のメカニズム
虫垂炎の発症には複数の要因が関与しています。最も一般的なのは、便の固まりや食物の残渣、稀に寄生虫などが虫垂の入り口を塞ぐことです。
閉塞が起こると虫垂内の圧力が上昇し、血流が悪化します。酸素不足となった虫垂壁は細菌感染に対する抵抗力が低下し、炎症が急速に進行していくのです。
初期症状を見逃すリスク
虫垂炎の初期症状は他の消化器疾患と類似しているため、約25%の症例で診断が遅れるというデータがあります。実際に、胃腸炎と思って市販薬を服用していたという方が少なくありません。
初期症状を見逃すことで起こるリスクには、虫垂穿孔による腹膜炎、膿瘍形成、敗血症などがあり、これらは生命に関わる重篤な合併症となります。早期発見により、多くの場合で腹腔鏡手術などの低侵襲治療が可能となるのです。
虫垂炎の典型的な初期症状
虫垂炎の初期症状には特徴的なパターンがあります。最も重要なのは痛みの部位と性質の変化ですが、痛みの移動が見られるのは全症例の約50%ほどのため、他の症状も併せて総合的に判断することが大切です。
私たちが日常の診療で特に注意して観察しているのは、腹痛の経時的変化と随伴症状の組み合わせです。単一の症状だけでなく、複数の症状が重なって現れる点が虫垂炎の特徴といえるでしょう。
痛みの部位と移動パターン
典型的な虫垂炎では、最初にみぞおちやへその周囲に鈍い痛みが現れ、数時間以内に右下腹部へ移動します。この痛みの移動は「転移痛」と呼ばれ、虫垂炎を疑う重要なサインです。
ただし、痛みの移動がない場合もあります。高齢者や小児、妊娠中の女性では典型的な症状が出にくく、最初から右下腹部の痛みで始まることもあるのです。
痛みの段階 | 部位 | 特徴 |
---|---|---|
初期(1〜6時間) | みぞおち・へそ周囲 | 鈍い痛み、違和感程度 |
進行期(6〜12時間) | 右下腹部へ移動 | 痛みが強くなり、歩行困難 |
炎症進行(12時間以降) | 右下腹部に限局 | 持続的で強い痛み |
反跳痛と歩行時の痛み増強
虫垂炎に特徴的な身体所見として「反跳痛」があります。これは右下腹部を手で押してから急に手を離した際に痛みが増強する現象で、腹膜の炎症を示唆する重要なサインです。
また、歩行時や咳をした時、体を動かした時に右下腹部の痛みが強くなることも虫垂炎の特徴です。歩き方を観察することで、虫垂炎の可能性を早期に判別できることもあるのです。
痛みの性質と強さの変化
虫垂炎の痛みは時間経過とともに強くなり、持続的になるのが特徴です。初期は間欠的で我慢できる程度でも、炎症が進行すると常に痛みを感じるようになります。
痛みの強さは炎症が進行すると日常生活に支障をきたすレベルになります。この痛みの増強パターンも診断の重要な手がかりとなるのです。
虫垂炎初期症状のセルフチェック方法
虫垂炎の早期発見には、症状を系統的にチェックすることが重要です。受診前に自宅で確認していただきたいポイントをまとめてみました。ただし、セルフチェックは参考程度に留め、疑わしい症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。
セルフチェックの際は、症状の有無だけでなく、時間経過による変化も記録しておくと診断に役立ちます。特に痛みの部位、強さ、随伴症状の推移を観察することで、医師への正確な症状の伝達が可能になります。
痛みに関するチェックポイント
腹痛の部位、強さ、性質を時系列で確認することで、虫垂炎の可能性を判断できます。以下のチェック項目を順番に確認してみましょう。
- 最初の痛みはみぞおちやへその周囲に感じたか
- 痛みが右下腹部に移動したか
- 歩行時や咳をした時に痛みが強くなるか
- 右下腹部を押した後に手を離すと痛みが増すか(反跳痛)
- 痛みが時間とともに強くなっているか
- 痛み止めを飲んでも効果が薄いか
随伴症状のセルフチェック
虫垂炎では腹痛以外にも特徴的な症状が現れます。これらの随伴症状を確認することで、単純な胃腸炎や消化不良との鑑別に役立ちます。
チェック項目 | 症状 | 特徴 |
---|---|---|
消化器症状 | 食欲不振、吐き気・嘔吐 | 食事が全く摂れない状態 |
全身症状 | 発熱、倦怠感 | 37.5℃以上の発熱 |
排便状況 | 便秘、下痢 | 普段と明らかに異なる状態 |
活動性 | 歩行困難、体動制限 | 普段の動作ができない |
緊急受診が必要な症状
以下の症状が一つでも当てはまる場合は、直ちに医療機関を受診してください。これらは虫垂炎が進行し、合併症を起こしている可能性を示唆する危険なサインです。
- 右下腹部の激しい痛みで歩行が困難
- 38℃以上の高熱が続いている
- 持続する嘔吐で水分も摂取できない
- 腹部全体の痛みや硬直
- 意識がもうろうとしている
- 血圧低下や頻脈などのショック症状
実際の症例から学ぶ虫垂炎の初期症状
当院で実際に診察した症例を通じて、虫垂炎の初期症状がどのように現れるかを具体的に見ていきましょう。個人情報に配慮し、一部詳細を変更していますが、症状の経過は実際の症例に基づいています。
これらの実例を参考にすることで、同様の症状を経験した際の判断材料にしてください。ただし、症状の現れ方には個人差があることも理解しておきましょう。
典型的な経過をたどった30代女性
30代女性の会社員の方で、朝食後にみぞおちの鈍痛を自覚したケースです。最初は「昨夜の食事が悪かったかな」程度に考えていたそうです。
午後になると痛みが右下腹部に移動し、歩くのが辛くなったため当院を受診されました。診察時には右下腹部に圧痛と反跳痛を認め、軽度の発熱も見られました。血液検査で白血球増加も確認され、総合的に虫垂炎と診断しました。
非典型的な症状を呈した小学生男児
8歳の男児で、学校から「お腹が痛い」と連絡があり、母と一緒に受診されました。子供の場合、症状をうまく表現できないため、保護者の方の観察が重要になります。
この症例では、最初から右下腹部の痛みがあり、典型的な痛みの移動は見られませんでした。しかし、歩き方がおかしく、右足を引きずるような歩行をしていることに母が気づいたのです。診察すると軽度の発熱と右下腹部の圧痛があり、虫垂炎として総合病院に紹介しました。
症例の特徴 | 30代女性 | 小学生男児 |
---|---|---|
初期症状 | みぞおちの鈍痛 | 右下腹部の痛み |
痛みの移動 | あり(典型的) | なし(非典型的) |
発見のきっかけ | 歩行困難 | 歩行の異常 |
診断までの時間 | 約6時間 | 約4時間 |
高齢者の虫垂炎
75歳男性の症例では、典型的な症状に乏しく診断に苦慮しました。高齢者では炎症反応が弱く、痛みも軽度であることが多いのです。
この方は軽度の腹部不快感と食欲不振を主訴に来院されました。若い方であれば見過ごしてしまいそうな軽い症状でしたが、詳しく診察すると右下腹部に軽い圧痛がありました。救急病院に紹介しCT検査を行ってもらったところ虫垂炎の診断となり、早期治療により良好な経過をたどりました。
虫垂炎の初期症状と間違えやすい疾患との見分け方
虫垂炎の初期症状は他の腹部疾患と類似している場合が多く、正確な鑑別診断が重要です。当院でも、最初は別の疾患を疑って受診される方が少なくありません。適切な診断のためには、症状の特徴を理解し、専門的な検査を組み合わせることが必要です。
特に女性では婦人科疾患、高齢者では他の消化器疾患との鑑別が重要になります。自己判断に頼らず、疑わしい症状があれば早めに医療機関を受診することをお勧めします。
急性胃腸炎との見分け方
急性胃腸炎は虫垂炎と最も間違えやすい疾患の一つです。両者とも腹痛、吐き気、嘔吐を伴いますが、痛みの部位と性質に違いがあります。
急性胃腸炎では腹痛が腹部全体に広がることが多く、下痢を伴うことが特徴です。一方、虫垂炎では痛みが右下腹部に限局し、下痢よりもどちらかというと便秘傾向を示すことが多いのです。
ポイント | 虫垂炎 | 急性胃腸炎 |
---|---|---|
痛みの部位 | 右下腹部に限局 | 腹部全体 |
排便状況 | 便秘傾向 | 下痢が多い |
発熱パターン | 徐々に上昇 | 急激な発熱 |
歩行時の痛み | 著明に増強 | 軽度の増強 |
婦人科疾患との見分け方
女性の場合、卵巣嚢腫の茎捻転や卵管炎などの婦人科疾患との鑑別が重要です。これらの疾患も右下腹部痛を起こすことがあり、虫垂炎と混同されやすいのです。
婦人科疾患では月経周期との関連や、内診での圧痛の部位が診断の手がかりになります。当院では必要に応じて婦人科への受診をご案内しています。
尿路系疾患との見分け方
尿路結石や尿路感染症も右下腹部痛の原因となることがあるため、鑑別が必要です。尿路系疾患では血尿や排尿時痛を伴うことが多く、尿検査が診断に有用です。
虫垂炎では通常、尿所見に異常は見られないため、検査結果と症状を総合的に判断することで鑑別が可能になります。
虫垂炎の診断方法
虫垂炎の診断には、問診・身体診察・血液検査・画像検査を組み合わせた総合的なアプローチが必要です。当院では、症状の経過を詳しく聞き取り、身体診察で圧痛の部位や反跳痛の有無を確認した上で、必要な検査を選択しています。
診断の精度を高めるため、複数の検査を組み合わせることが重要です。単一の検査結果だけでなく、臨床症状との整合性を総合的に判断することで、より正確な診断が可能になります。
血液検査
血液検査では白血球数とCRP値の上昇が虫垂炎を示唆する重要な指標となります。白血球数は通常の2倍以上に増加し、炎症の程度を反映します。
ただし、初期の虫垂炎では血液検査が正常値を示すこともあるため、検査結果が正常でも症状が典型的であれば虫垂炎を疑う必要があります。
検査項目 | 正常値 |
---|---|
白血球数 | 4,000〜9,000/μL |
CRP値 | 0.3mg/dL未満 |
好中球の割合 | 50〜70% |
画像検査
腹部超音波検査やCT検査により虫垂周囲の変化を確認することも有用な診断方法です。虫垂の腫大や周囲の炎症性変化を確認することで、診断の確度を高めることができます。
合併症の有無や他疾患との鑑別にも有用であり、特に診断が困難な症例や、手術適応の判断が必要な場合に威力を発揮します。
スコアリングシステム
Alvaradoスコアなどのスコアリングシステムを用いることで、診断精度の向上が可能です。症状、身体所見、検査結果を点数化し、虫垂炎の可能性を数値で評価します。
当院でも、このような指標を参考にしながら、客観的な診断を心がけています。ただし、スコアリングシステムは診断の補助的手段であり、最終的には臨床的判断が重要になります。
よくある質問と回答
Q. 虫垂炎の痛みは痛み止めで和らぎますか?
A. 虫垂炎の痛みは市販の痛み止めではあまり効果がないことが多いです。一時的に痛みが軽減されることはありますが、根本的な炎症は進行し続けるため、痛み止めが効かない、または効果が短時間しか続かない場合は虫垂炎を疑って医療機関を受診してください。また、痛み止めで症状が隠れてしまうと診断が困難になるケースもあるため、受診前の服用は最低限にしておくよ良いでしょう。
Q. 子供の虫垂炎の症状は大人と違いますか?
A. 子供の虫垂炎では大人と比べて症状が非典型的になることが多く、診断が困難な場合があります。痛みの移動がはっきりしない、最初から右下腹部が痛むことがある、発熱が高くなりやすい、嘔吐が頻繁に起こるなどの特徴があります。また、子供は症状をうまく表現できないため、保護者の方の注意深い観察が重要です。普段と明らかに様子が違う、歩き方がおかしい、食事を全く摂らないなどの変化があれば早めの受診をお勧めします。
Q. 妊娠中に虫垂炎になることはありますか?
A. 妊娠中でも虫垂炎になる可能性があります。妊娠により子宮が大きくなると虫垂の位置が変わるため、典型的な右下腹部痛ではなく、より上方や背中側に痛みを感じることがあります。また、妊娠に伴う吐き気と区別がつきにくく、診断が遅れがちになります。妊娠中の腹痛では、産婦人科医と連携した慎重な診断と治療が必要になりますので、気になる症状があれば遠慮なく医療機関にご相談ください。
Q. 虫垂炎は薬だけで治療できますか?
A. 軽度の虫垂炎では抗生物質による保存的治療が選択される場合もありますが、多くは手術治療が第一選択となります。薬物治療を選択する場合でも、症状の悪化がないか慎重な経過観察が必要で、改善が見られない場合や症状が悪化した場合は手術が必要になります。また、一度保存的治療で改善しても数年での再発リスクが約20–40%とする報告もあるため、根治的治療となる手術を勧める場合が多いという側面もあります。
まとめ
虫垂炎の初期症状は、みぞおちやへその周囲から始まり右下腹部へ移動する痛みが特徴的ですが、この典型的な経過は約半数の方にしか見られません。食欲不振、吐き気・嘔吐、軽度の発熱などの随伴症状と併せて総合的に判断することが重要です。
歩行時の痛みの増強や反跳痛の存在は虫垂炎を強く疑わせるサインであり、これらの症状が認められた場合は速やかに医療機関を受診してください。自己判断に頼らず、疑わしい症状があれば早期受診により重篤な合併症を予防することができます。
虫垂炎の症状でお困りの際は、東大宮駅徒歩0分・平日夜まで診療のステーションクリニック東大宮へお気軽にご相談ください
ステーションクリニック東大宮はJR東大宮駅西口から徒歩0分、ロータリー沿いにある総合クリニックです。
内科・皮膚科・アレルギー科を中心に、高血圧・糖尿病などの生活習慣病から肌トラブルまで、幅広いお悩みに対応しています。
- 完全予約制【ファストパス】で待ち時間を大幅短縮
- 平日夜や土日祝も診療しており、忙しい方でも通いやすい
- 最大89台の無料提携駐車場完備で、お車でも安心して受診できる
- キャッシュレス決済対応(クレジットカード/QRコード決済/交通系IC/電子マネーなど)
「最近、血圧が高めで気になる」「肌のかゆみがなかなか治らない」など、どんな小さなお悩みでもまずはご相談ください。